八重歯がかわいいのは日本だけ?世界の常識と歯列矯正のメリット
「八重歯はかわいい」というイメージは、実は日本特有の文化に根差しています。この記事では、海外での八重歯の印象や、放置することで生じる虫歯・歯周病といった健康上のリスクを詳しく解説します。さらに、歯列矯正によって得られる審美面・健康面のメリットから、具体的な治療法、費用・期間の目安まで網羅的にご紹介。あなたの八重歯に関する疑問や悩みを解決します。
1. 「八重歯はかわいい」は本当に日本だけなのか その文化的背景
「八重歯がチャームポイント」という言葉を、あなたも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。日本では、少し不揃いな八重歯を「かわいい」「愛嬌がある」と捉える独特の文化が根付いています。しかし、この価値観は世界的に見ると非常に珍しいものです。なぜ日本では、八重歯がポジティブな印象を持たれるのでしょうか。その背景には、日本特有の文化的価値観やメディアの影響が深く関わっています。
1.1 幼さや未熟さの象徴として好まれる日本の価値観
日本で八重歯が「かわいい」とされる最大の理由は、それが「幼さ」や「未熟さ」を連想させるからです。欧米では成熟した大人の美しさが理想とされる傾向が強いのに対し、日本では古くから、完璧ではない、どこか頼りなげな存在に魅力を感じる「カワイイ文化」が育まれてきました。
八重歯は、乳歯から永久歯へと生え変わる時期の子供によく見られる歯並びです。そのため、八重歯のある笑顔は、見る人に無邪気で純粋な子供時代を思い起こさせ、「守ってあげたい」という庇護欲をかき立てます。完全に整っていない「不完全さ」が、かえって親しみやすさや愛嬌として受け入れられるのです。これは、完璧なシンメトリー(左右対称)よりも、少し崩れたアシンメトリー(左右非対称)のなかに美を見出す、日本の伝統的な美意識とも通じるものがあると言えるでしょう。
1.2 アイドルやアニメキャラクターが与えた影響
「八重歯=かわいい」というイメージの定着には、メディア、特にアイドルやアニメキャラクターの存在が大きく影響しています。
1980年代以降、多くの人気アイドルが八重歯をチャームポイントとして活躍し、ファンに親しまれてきました。近年では、元AKB48の板野友美さんのように、八重歯がトレードマークとなり、小悪魔的なキュートさを引き立てる要素として広く認知されました。彼女たちの笑顔を通じて、八重歯はコンプレックスではなく、個性を際立たせる魅力的な特徴であるという認識が社会に広がっていったのです。
また、日本のポップカルチャーを代表するアニメや漫画の世界でも、八重歯はキャラクターの個性を表現する記号として頻繁に用いられます。元気で活発なキャラクターや、少しイタズラ好きな小悪魔系キャラクターに八重歯が描かれることが多く、「元気」「キュート」「親しみやすい」といったポジティブなイメージを視聴者に与える効果があります。
ジャンル | 代表的な例 | 与えたイメージや文化的影響 |
---|---|---|
アイドル文化 | 80年代以降の多くのアイドル(例:板野友美さんなど) | 八重歯を隠すのではなく、個性的なチャームポイントとしてアピール。親しみやすさやキュートな印象を定着させた。 |
アニメ・漫画 | 様々な作品のキャラクター(例:『うる星やつら』のラムなど) | 元気、小悪魔的、活発といったキャラクター性を視覚的に表現する記号として機能。「八重歯=かわいい」という刷り込みに繋がった。 |
このように、日本の文化的背景とメディアによる影響が相互に作用し、「八重歯はかわいい」という世界でも類を見ない独特の価値観が形成されてきたのです。
2. 海外ではどう見られる?八重歯に対する世界の常識
日本では「チャームポイント」や「かわいい」の象徴として捉えられることもある八重歯。しかし、一歩海外に出ると、その評価は一変します。グローバル化が進む現代において、海外での歯並びに対する価値観を知っておくことは、国際的なコミュニケーションを円滑にする上でも重要です。ここでは、欧米やアジア諸国における八重歯の一般的なイメージについて解説します。
2.1 欧米では自己管理ができていないという印象も
アメリカやヨーロッパなどの欧米諸国では、整った美しい歯並びが一種の社会的ステータスとして認識されています。歯は健康や育ちの良さ、さらには自己管理能力を示す指標と見なされる文化が根付いているのです。
そのため、八重歯のように歯並びが乱れている状態は、以下のようなネガティブな印象に繋がる可能性があります。
- 自己管理ができていない:健康や身だしなみへの意識が低いのではないか。
- 経済的な問題:歯列矯正を受ける経済的な余裕がなかったのではないか。
- 育ちへの疑問:親が子供の歯の健康に関心がなかったのではないか。
特にビジネスシーンやフォーマルな場では、第一印象が非常に重要視されます。歯並びが悪いことが、知性や信頼性に欠けるという無意識の偏見に繋がることも少なくありません。欧米では、幼少期に歯列矯正を行うことが一般的であり、「整った歯並びは親から子への贈り物」と考える家庭も多いのが実情です。
2.2 韓国や中国などアジア諸国での価値観
日本と同じアジア圏でも、八重歯に対する価値観は異なります。特に美容への意識が高い国々では、日本とは大きく違う見方をされています。
韓国
美容大国として知られる韓国では、歯の美しさに対する意識が非常に高いです。K-POPアイドルや俳優を見てもわかるように、白く完璧に整った歯並びが美の絶対的な基準とされています。八重歯は「かわいい」とは見なされず、デビュー前などに歯列矯正で治すのが一般的です。審美歯科が非常に発展しており、歯並びを整えることは美しさを追求する上で当然のことと捉えられています。
中国
中国でも近年、経済発展に伴い人々の美意識が向上し、欧米の価値観が広く浸透しています。富裕層を中心に、整った歯並びが洗練されたイメージやステータスに繋がると考える人が増えており、歯列矯正市場は急速に拡大しています。一部、日本のアニメやアイドルの影響で八重歯を「かわいい」と感じる若者もいますが、社会全体の主流な価値観としては、整然とした歯並びが好まれる傾向にあります。
このように、アジア諸国内でも、特に都市部や若い世代を中心に、グローバルスタンダードである「整った歯並び」を良しとする価値観が一般的になりつつあります。
国 | 一般的な価値観 | 背景 |
---|---|---|
日本 | かわいい、チャームポイント、幼い魅力 | 独自の文化、アイドルやアニメキャラクターの影響 |
韓国 | 矯正すべきもの、美の基準から外れる | 徹底した美意識、K-POPなどエンタメ業界の影響 |
中国 | 整っている方が良い(矯正がブームに) | 経済発展に伴う美意識の向上、欧米文化の浸透 |
2.3 八重歯が吸血鬼を連想させる文化圏
欧米の文化、特にキリスト教文化圏において、八重歯のイメージを決定づけるもう一つの側面があります。それは、八重歯が「吸血鬼(ドラキュラ)」や「狼男」といったモンスターを連想させることがある点です。
八重歯は、本来歯列に収まるべき犬歯が外側に飛び出している状態です。この尖った犬歯が強調されることから、物語や映画に登場する牙を持つモンスターの姿と重ねられてしまうのです。
もちろん、八重歯のある人を見て誰もがすぐに吸血鬼を思い浮かべるわけではありません。しかし、文化的な背景として「尖った歯=動物的、野性的、不吉」といった潜在的なイメージが存在するため、「かわいい」というポジティブな印象とは真逆の、「怖い」「不気味」といった印象を持たれてしまう可能性もゼロではないのです。このように、八重歯に対する見方は、その国の文化や歴史的背景に深く根差していると言えるでしょう。
3. かわいいだけじゃない 八重歯を放置する健康上のリスク
日本では「チャームポイント」や「愛嬌がある」とポジティブな印象を持たれることもある八重歯。しかし、歯科医療の観点から見ると、八重歯は「叢生(そうせい)」や「乱杭歯(らんぐいば)」と呼ばれる不正咬合の一種であり、見た目のかわいさとは裏腹に、お口や全身の健康に様々な悪影響を及ぼすリスクを抱えています。ここでは、八重歯をそのままにしておくことで生じる可能性のある、具体的な健康上のリスクについて詳しく解説します。
3.1 歯磨きがしにくく虫歯や歯周病の原因になる
八重歯の最大のリスクは、清掃性の悪さにあります。歯が本来の位置から外れて重なり合っているため、歯ブラシの毛先が届きにくい死角が生まれてしまいます。
特に、八重歯とその隣の歯が接する面や、歯と歯茎の境目は非常に複雑な形状をしており、プラーク(歯垢)が溜まりやすくなります。プラークは単なる食べカスではなく、細菌の塊です。このプラークを十分に除去できない状態が続くと、細菌が酸を産生して歯を溶かす「虫歯」や、歯茎に炎症を起こし、最終的には歯を支える骨(歯槽骨)を溶かしてしまう「歯周病」を引き起こす直接的な原因となります。
八重歯があることで、その歯だけでなく隣接する健康な歯まで虫歯や歯周病の危険に晒してしまうのです。将来的には、歯を失うことに繋がりかねない深刻な問題と言えるでしょう。丁寧なブラッシングはもちろん、デンタルフロスや歯間ブラシを使ったセルフケアが不可欠ですが、それでも完全に汚れを取り除くのは困難なケースが少なくありません。
(参考:不正咬合の種類と治療法 | 公益社団法人 日本臨床矯正歯科医会)
3.2 口内炎ができやすく口臭にも繋がりやすい
八重歯は、お口の中のトラブルを引き起こす原因にもなります。尖った犬歯(糸切り歯)が八重歯になっていることが多いため、その先端が唇の内側や頬の粘膜に当たりやすく、傷つけてしまうことがあります。
食事や会話の際にうっかり粘膜を噛んでしまったり、常に同じ場所が刺激されたりすることで、慢性的な口内炎に悩まされる方は少なくありません。
また、前述の通りプラークが溜まりやすい環境は、口臭の発生源にもなります。プラーク内の細菌がタンパク質を分解する際に、揮発性硫黄化合物(VSC)という強い臭いを放つガスを発生させます。これが口臭の主な原因です。八重歯周辺の磨き残しは、常に口臭の原因物質を作り出す工場を口の中に抱えているような状態と言えます。
八重歯が引き起こす口内炎と口臭の問題をまとめると、以下のようになります。
問題点 | 主な原因 | 具体的な影響 |
---|---|---|
慢性的な口内炎 | 尖った歯の先端が唇や頬の粘膜を継続的に刺激・損傷する | 食事や会話のたびに痛みを感じる、治りにくく何度も繰り返す |
口臭の悪化 | 歯が重なり合った部分にプラークが蓄積し、細菌が繁殖する | 細菌が臭いガスを発生させ、対人関係におけるコンプレックスに繋がる |
3.3 全体の噛み合わせが悪くなる可能性
八重歯は、単に一本の歯がズレているだけの問題ではありません。多くの場合、顎の大きさと歯の大きさのアンバランスによって、歯が並ぶスペースが不足していることが根本的な原因です。つまり、八重歯があるということは、お口全体の歯並びが乱れており、正常な噛み合わせができていない可能性が高いことを示唆しています。
噛み合わせが悪いと、次のような様々な問題を引き起こす可能性があります。
- 消化器官への負担:食べ物を十分に細かく噛み砕けないまま飲み込んでしまうため、胃や腸に負担がかかり、消化不良の原因となることがあります。
- 特定の歯への過剰な負担:噛む力が均等に分散されず、特定の歯にだけ強い力がかかってしまいます。これにより、その歯がすり減ったり、欠けたり、ひびが入ったりするリスクが高まります。
- 顎関節症のリスク:顎の関節に不自然な力がかかり続けることで、「口を開けるとカクカク音がする」「口が開きにくい」「顎が痛む」といった顎関節症の症状を引き起こすことがあります。
- 全身のバランスへの影響:噛み合わせのズレが体の重心のズレに繋がり、頭痛や肩こり、めまいといった全身の不調(不定愁訴)の一因になるとも言われています。
このように、八重歯を放置することは、お口の中だけでなく、全身の健康にも悪影響を及ぼす可能性があるのです。かわいいという印象だけで判断せず、その裏に潜む健康上のリスクを正しく理解することが大切です。
4. 八重歯の歯列矯正で得られる審美面と健康面のメリット
日本では「かわいい」と言われることもある八重歯ですが、歯列矯正で整えることによって、見た目の美しさだけでなく、お口や全身の健康においても多くのメリットが期待できます。コンプレックスの解消といった精神的な側面から、虫歯予防などの機能的な側面まで、八重歯の歯列矯正がもたらす具体的なメリットを詳しく見ていきましょう。
歯列矯正で得られる主なメリットは、以下の通り「審美面」と「健康面」に大別できます。
メリットの種類 | 具体的な改善点 |
---|---|
審美面のメリット | 口元のコンプレックス解消、笑顔への自信、清潔感のある印象、顔全体のバランス改善 |
健康面のメリット | 虫歯・歯周病リスクの低減、清掃性の向上、正しい噛み合わせの実現、消化促進と全身の健康維持 |
4.1 メリット1 見た目のコンプレックスが解消される
八重歯の最大のメリットとして挙げられるのが、審美面の改善です。八重歯が気になって、人前で口を開けて笑うことに抵抗を感じたり、口元を手で隠す癖がついてしまったりする方は少なくありません。
歯列矯正によって歯並びが綺麗に整うと、口元へのコンプレックスが解消され、心から自然な笑顔を見せられるようになります。整った歯並びは清潔感や知的な印象を与え、自信に満ちた表情はコミュニケーションをより円滑にしてくれるでしょう。また、八重歯が唇に引っかかって話しにくい、口が閉じにくいといった物理的なお悩みも、矯正治療によって改善が期待できます。
4.2 メリット2 虫歯や歯周病のリスクが低減する
八重歯は、犬歯が他の歯と重なり合って生えている状態です。この重なった部分は非常に複雑な形をしており、歯ブラシの毛先が届きにくいため、汚れや歯垢(プラーク)が溜まりやすいという大きなデメリットがあります。
歯垢が溜まった状態が続くと、虫歯菌や歯周病菌が繁殖し、虫歯や歯肉炎、さらには歯を支える骨を溶かしてしまう歯周病へと進行するリスクが高まります。厚生労働省の運営する情報サイトでも、歯周病予防におけるプラークコントロールの重要性が指摘されています。(参考: 第一三共ヘルスケア「歯周病の予防」)
歯列矯正で八重歯を正しい位置に動かすことで、歯と歯の間の清掃性が格段に向上し、毎日のセルフケアで汚れを効果的に除去できるようになります。これにより、将来にわたってご自身の歯を健康に保つための、虫歯・歯周病予防に繋がるのです。
4.3 メリット3 食べ物をしっかり噛めるようになり健康に繋がる
八重歯は本来の歯列から外れているため、正常な噛み合わせに参加していないことがほとんどです。その結果、他の歯に過剰な負担がかかったり、食べ物を効率よく噛み砕く「咀嚼(そしゃく)」の機能が低下したりする場合があります。
うまく咀嚼ができないと、食べ物が大きいまま食道や胃に送られるため、消化器官に負担をかけてしまう可能性があります。歯列矯正によって正しい噛み合わせを獲得すると、すべての歯でバランス良く食べ物を噛めるようになり、消化を助け、胃腸への負担を軽減します。しっかりと噛むことは、唾液の分泌を促して口内の自浄作用を高めるだけでなく、脳への血流を増やして活性化させたり、満腹感を得やすくなったりと、全身の健康維持にも貢献します。(参考: 噛む機能の低下は、血糖値上昇や骨格筋量低下により生活習慣病のリスク 噛む機能を適切に維持・回復しよう)
4.4 メリット4 顔全体のバランスが整うことも
歯並びは、口元だけでなく顔全体の印象を大きく左右する要素です。八重歯があることで唇が押し上げられ、口元が突出して見えたり、口が閉じにくくなったりすることがあります。
歯列矯正で歯を正しいアーチの中に収めることで、口元の突出感が改善され、自然に唇を閉じられるようになります。その結果、鼻先と顎の先端を結んだ「Eライン(エステティックライン)」と呼ばれる美しい横顔の基準に近づくなど、フェイスラインがすっきりと整い、より洗練された印象になる可能性があります。もちろん、歯列矯正は骨格そのものを変える治療ではありませんが、歯並びと噛み合わせを整えることで、顔全体の調和がとれ、審美的な改善が期待できるのです。
5. 八重歯の歯列矯正 主な治療法と費用・期間の目安
「かわいい」と言われることもある八重歯ですが、歯並びを整えたいと考えたとき、どのような治療法があるのでしょうか。八重歯の歯列矯正には、主に「ワイヤー矯正」と「マウスピース矯正」の2つの方法があります。それぞれに特徴やメリット・デメリットがあり、費用や治療期間も異なります。ここでは、代表的な治療法と、矯正にかかる費用・期間の目安について詳しく解説します。ご自身の希望やライフスタイルに合った治療法を見つけるための参考にしてください。
5.1 ワイヤー矯正(表側・裏側)の特徴
ワイヤー矯正は、歯の表面に「ブラケット」という装置を取り付け、そこにワイヤーを通して少しずつ歯を動かしていく、最も歴史と実績のある矯正治療法です。幅広い症例に対応できるのが大きな強みで、抜歯が必要な複雑な八重歯の治療にも適しています。ワイヤー矯正は、装置を歯のどの面につけるかによって「表側矯正」と「裏側矯正」に分けられます。
【表側矯正】
歯の表側(唇側)にブラケットとワイヤーを装着する方法です。 メリットは、比較的費用を抑えられ、ほとんどの症例に対応可能である点です。一方、デメリットとしては、装置が外から見えてしまうため、審美性が気になる方もいらっしゃいます。近年では、白や透明で目立ちにくいブラケットも選択できます。
【裏側矯正(舌側矯正)】
歯の裏側(舌側)に装置を装着する方法です。 最大のメリットは、装置が外から全く見えないため、他人に気づかれずに矯正治療を進められる点です。しかし、表側矯正に比べて費用が高額になる傾向があり、舌が装置に触れるため、慣れるまで発音しにくさや違和感を覚えることがあります。
5.2 マウスピース矯正(インビザラインなど)の特徴
マウスピース矯正は、患者様一人ひとりの歯型に合わせて作製された、透明なマウスピース型の装置を定期的に交換していくことで歯を動かす比較的新しい治療法です。世界的に多くの実績を持つ「インビザライン」が代表的なシステムとして知られています。
最大のメリットは、装置が透明で目立ちにくく、食事や歯磨きの際には自分で取り外せることです。これにより、治療中も衛生的な口腔環境を保ちやすく、ワイヤー矯正に比べて痛みや口内炎のリスクが少ないと言われています。通院頻度もワイヤー矯正より少なく済む場合があります。
一方で、デメリットとしては、抜歯が必要な症例や歯の移動量が大きい複雑な症例には対応できない場合があります。また、1日20時間以上の装着時間を守る必要があり、患者様ご自身の協力が治療結果を大きく左右します。
5.3 歯列矯正にかかる費用と期間の相場
歯列矯正の費用や期間は、治療する範囲(部分矯正か全体矯正か)、選択する装置、そして個人の歯並びの状態によって大きく変動します。八重歯の治療では、その原因や他の歯への影響も考慮して治療計画が立てられます。
5.3.1 部分矯正と全体矯正の違い
部分矯正とは、気になる八重歯やその周辺の前歯など、範囲を限定して歯並びを整える治療法です。治療期間が短く、費用も比較的安価なのが特徴です。ただし、噛み合わせに問題がない軽度の八重歯などが主な対象となります。
全体矯正とは、奥歯を含めたすべての歯を動かし、全体の歯並びと噛み合わせを根本から改善する治療法です。抜歯を伴う八重歯の治療や、噛み合わせに問題がある場合は全体矯正が必要となります。治療期間は長くなり、費用も高くなりますが、より理想的な口元と機能的な噛み合わせを得ることができます。
以下に、治療法ごとの費用と期間の一般的な目安をまとめました。これはあくまで相場であり、実際の費用はクリニックや治療計画によって異なります。
治療法 | 治療範囲 | 費用目安 | 期間目安 |
---|---|---|---|
ワイヤー矯正(表側) | 部分矯正 | 30万円~60万円程度 | 6ヶ月~1年程度 |
全体矯正 | 70万円~100万円程度 | 1年~3年程度 | |
ワイヤー矯正(裏側) | 部分矯正 | 40万円~70万円程度 | 8ヶ月~1年半程度 |
全体矯正 | 100万円~150万円程度 | 2年~3年程度 | |
マウスピース矯正 | 部分矯正 | 30万円~60万円程度 | 5ヶ月~1年程度 |
全体矯正 | 80万円~110万円程度 | 1年半~3年程度 |
※上記の費用は、装置料、調整料などを含めた治療完了までの総額の目安です。
※費用体系はクリニックによって異なり、初診相談料、検査診断料、保定装置(リテーナー)料などが別途必要になる場合があります。
より詳しい情報は、公益社団法人 日本矯正歯科学会のウェブサイトなども参考に、必ず事前に受診を希望するクリニックで確認しましょう。
6. 歯列矯正を始める前に知っておきたいこと
八重歯の歯列矯正を考え始めたとき、期待とともに多くの疑問や不安が浮かぶことでしょう。歯列矯正は、決して安くはない費用と長い期間を要する治療です。だからこそ、始めてから「こんなはずではなかった」と後悔しないために、事前に正しい知識を身につけておくことが非常に重要になります。ここでは、安心して治療をスタートできるよう、矯正歯科の選び方から費用、保険適用の有無まで、必ず知っておきたいポイントを詳しく解説します。
6.1 矯正歯科の選び方のポイント
歯列矯正の成功は、信頼できる歯科医師とクリニックに出会えるかどうかにかかっていると言っても過言ではありません。長期間にわたるパートナー選びだからこそ、以下のポイントを総合的に判断して、慎重に選びましょう。
チェックポイント | 確認すべき内容 |
---|---|
専門性・資格 | 矯正治療を専門に行っている歯科医院か、また「日本矯正歯科学会」の認定医や臨床指導医(旧専門医)などが在籍しているかを確認しましょう。これらの資格は、矯正治療に関する専門的な知識と豊富な経験を持つ証です。 |
カウンセリングの質 | あなたの悩みや希望を親身に聞いてくれるか、治療のメリット・デメリット、リスクについて丁寧に説明してくれるかが重要です。質問しやすい雰囲気か、納得できるまで説明してくれるか(インフォームド・コンセント)を確かめましょう。 |
治療法の選択肢 | ワイヤー矯正(表側・裏側)、マウスピース矯正など、複数の治療法を提示してくれるクリニックを選びましょう。あなたの歯並びの状態やライフスタイルに合った、最適な治療法を一緒に考えてくれるはずです。 |
明確な費用体系 | 検査料から装置料、毎月の調整料、保定装置料まで含めた総額を提示してくれる「トータルフィー制度(総額固定制)」’mark>のクリニックが安心です。治療の途中で追加費用が発生する可能性がないか、事前にしっかりと確認しましょう。 |
精密検査の設備 | 正確な治療計画を立てるために不可欠な、頭部X線規格写真(セファロ)や歯科用CTなどの精密検査設備が整っているかどうかも、クリニック選びの重要な指標となります。 |
通いやすさ | 矯正治療は1〜3年、その後の保定期間も含めるとさらに長いお付き合いになります。定期的な通院が必要になるため、自宅や職場からアクセスしやすい立地か、診療時間や曜日はライフスタイルに合っているかも確認しておきましょう。 |
一つのクリニックだけでなく、後悔しないクリニック選びのためにも、複数の医院でカウンセリングを受けることをおすすめします。実際に話を聞くことで、クリニックの雰囲気や先生との相性もわかり、比較検討することで自分に最適な場所を見つけやすくなります。
6.2 歯列矯正は保険適用されるのか
費用について最も気になるのが、公的医療保険が使えるかどうかという点でしょう。結論から言うと、八重歯の改善など、審美(見た目)を目的とした歯列矯正は、原則として保険適用外の「自由診療」となり、費用は全額自己負担となります。
ただし、以下のような特定のケースでは、保険が適用されることがあります。
- 厚生労働大臣が定める先天性の疾患(唇顎口蓋裂など)に起因した噛み合わせの異常
- 顎の骨の大きさや形に問題がある「顎変形症」で、外科的な手術(顎骨切りなど)を併用する必要があると診断された場合
これらの保険適用には、国が定めた施設基準を満たした医療機関(顎口腔機能診断施設など)で治療を受ける必要があるなど、細かい条件があります。自分のケースが保険適用に該当するかどうかは、カウンセリングの際に歯科医師に直接確認することが大切です。
また、保険適用外であっても、歯列矯正の費用は「医療費控除」の対象になる可能性があります。医療費控除とは、一年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得控除を受けて税金の一部が還付される制度です。噛み合わせの改善など、機能的な問題を解決するための治療と診断されれば、医療費控除の対象となることが一般的です。詳しくは国税庁のウェブサイトを確認するか、お近くの税務署にご相談ください。
6.3 まずは矯正相談に行ってみよう
インターネットや本で情報を集めるだけでは、自分の八重歯の状態や最適な治療法はわかりません。少しでも歯列矯正に興味を持ったら、まずは勇気を出して「矯正相談(カウンセリング)」に行ってみることを強くおすすめします。
矯正相談では、専門家である歯科医師に直接、以下のようなことを確認できます。
- 自分の歯並びや噛み合わせの現状評価
- 考えられる治療法の種類とそれぞれのメリット・デメリット
- おおよその治療期間と費用の見積もり
- 治療に伴う痛みやリスクに関する説明
- クリニックの設備や雰囲気、スタッフの対応
多くのクリニックでは、無料または比較的安価な費用で初回のカウンセリングを実施しています。専門家と直接話すことで、漠然とした不安が解消され、治療への理解が深まります。自分一人で悩まず、まずはプロの意見を聞くことから始めてみましょう。
6.3.1 医療法人 札幌矯正歯科では矯正相談を行っています。
当院でも、歯並びにお悩みの方へ向けた矯正相談を実施しております。日本矯正歯科学会の認定医が、患者様一人ひとりのお口の状態を丁寧に診察し、お悩みやご希望をじっくりお伺いします。最新の3D口腔内スキャナーを用いた治療後の歯並びシミュレーションも可能ですので、治療のイメージを具体的に掴んでいただけます。八重歯に関するお悩みはもちろん、費用や期間など、どんな些細なことでもお気軽にご相談ください。
7. まとめ
八重歯が「かわいい」という価値観は、日本の文化に根差した特有のものです。しかし海外では、自己管理ができていない印象を与えるなど、必ずしもポジティブには見られません。また、見た目の問題だけでなく、歯磨きがしにくく虫歯や歯周病のリスクを高めるなど健康上のデメリットも存在します。歯列矯正は、コンプレックスの解消はもちろん、長期的なお口の健康を守るための有効な手段です。ご自身の歯並びが気になる方は、まずは専門医に相談してみましょう。
矯正治療のご相談をご希望の方は、下記のボタンよりお気軽にご予約ください。
この記事の監修者
尾立 卓弥(おだち たくや)
医療法人札幌矯正歯科 理事長
宮の沢エミル矯正歯科 院長
北海道札幌市の矯正専門クリニック「宮の沢エミル矯正歯科」院長。
日本矯正歯科学会 認定医。