スリーインサイザー(前歯が3本)とは?先天性の原因と矯正抜歯のメリット・デメリットを徹底解説

こんにちは。医療法人 札幌矯正歯科 宮の沢エミル矯正歯科の理事長の尾立卓弥です。札幌で矯正歯科を検討中の方は、ぜひ医療法人 札幌矯正歯科 宮の沢エミル矯正歯科でご相談ください。「お子さんの下の前歯が、よく見たら3本しかない…」「歯医者さんで、矯正治療のために下の前歯を1本抜く(スリーインサイザー)と提案された…」
今、この記事をお読みのあなたは、このような状況で大きな不安や疑問を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。普段聞き慣れない「スリーインサイザー」という言葉に、一体どういうことなのかと情報を探しておられることと思います。
スリーインサイザー(Three Incisor)とは、その名の通り、前歯(切歯)が3本しかない状態を指す歯科用語です。この状態には、大きく分けて2つのパターンがあります。
- 生まれつき(先天性)歯が1本足りず、結果的に3本になっているケース
- 歯並びを整える矯正治療のために、意図的に前歯を1本抜歯して3本にするケース
どちらのケースであっても、顔の印象を大きく左右する「前歯」のことですから、「放置して良いものか」「治療するならどんなリスクがあるのか」「本当に抜歯して後悔しないか」など、知りたいことが多いはずです。
この記事では、スリーインサイザーの2つのパターンについて、それぞれの原因、放置した場合のデメリット、そして治療法のメリットと重大なリスクまで、矯正歯科の専門的な観点から徹底的に解説します。あなたの不安を解消し、最善の選択をするための一助となれば幸いです。
スリーインサイザー(前歯が3本)とは?2つの基本パターン
まず初めに、「スリーインサイザー」という言葉が指す、全く異なる2つのケースについて詳しく整理しましょう。あなたがどちらのパターンに当てはまるかによって、知るべき情報や将来的な治療の選択肢が大きく変わってきます。
パターン1:生まれつき前歯が3本の場合(先天性欠如)
これは、「先天性歯牙欠如(せんていせいしがけつじょ)」と呼ばれる症状の一つです。永久歯が作られる過程で、歯の“種”である「歯胚(しはい)」が何らかの理由で作られなかったために、生えてくるはずの前歯が1本足りず、結果的に3本(あるいはそれ以下)になっている状態を指します。
多くの場合、下の前歯(下顎切歯)のどれか1本が欠如しているケースが多く見られます。乳歯の段階で気づくこともあれば、永久歯に生え変わるタイミングのレントゲン検査などで初めて発覚することもあります。
パターン2:矯正治療のために3本にする場合(意図的な抜歯)
こちらは、生まれつきの歯は正常に揃っている(または他の歯が欠如している)ものの、歯並び、特に重度のガタガタ(叢生:そうせい)を治すために、あえて下の前歯を1本抜歯するという矯正治療の「手法」を指します。
歯が並ぶスペースが極端に足りない場合や、上下の噛み合わせのバランスを取るために、戦略的に前歯を1本間引くという選択肢です。これは、全体の噛み合わせや口元のバランスを整えるための最終手段の一つとして、歯科医師から提案されることがあります。
【パターン別】あなたの疑問にお答えします
あなたは今、どちらのパターンでお悩みでしょうか? それぞれの読者が最初に抱えるであろう、率直な疑問にお答えします。
【先天性の方へ】なぜ前歯が3本なの?放置する影響は?
「うちの子の前歯が3本しかない…周りの子と違うのでは?」と気づいた時、多くの親御さんが「なぜ?」「何か病気なの?」「このままで大丈夫?」と深く心配されます。
原因は、前述の通り「先天性欠如」であることがほとんどです。そして、最も気になる「放置した場合の影響」ですが、これはケースバイケースです。しかし一般的には、「見た目(歯の真ん中が上下でズレる、すきっ歯になる)の問題」や、永久歯が生えそろった際の「将来的な噛み合わせのズレ」に繋がる可能性があります。詳しくは次の章で丁寧に解説します。
【矯正抜歯を提案された方へ】なぜ前歯を抜くの?本当に大丈夫?
「ガタガタを治したいだけなのに、健康な前歯を抜くなんて…」と提案されれば、誰でもためらい、恐怖を感じてしまいます。
歯科医師がこの方法を提案する主な理由は、「歯が並ぶスペースが圧倒的に足りない」場合、特に下顎のスペース不足が著しい場合です。奥歯(小臼歯)を抜くよりも効率的にスペースを作れるといったメリットがある一方で、当然ながら特有のリスクも存在します。この治療法が本当にあなたにとってベストな選択なのか、提示されたメリットとデメリットを冷静に天秤にかける必要があります。
パターン1:「先天性」スリーインサイザーの原因と治療法
生まれつき前歯が3本だった場合、その背景にある原因と、将来どのような対処法が考えられるのかを詳しく見ていきましょう。
なぜ生まれつき前歯が3本になるのか?
先天的に歯が足りない(先天性欠如)明確な原因は、実はまだ完全には解明されていません。遺伝的な要因が関わっているという説や、歯が作られる胎児期(妊娠初期)に、何らかの全身的な要因(栄養状態や薬の影響など)が影響するという説もありますが、多くの場合「これが原因だ」と特定するのは困難です。
しかし、決して珍しいことではありません。日本人では約10人に1人に何らかの先天性欠如が見られるという統計もあり、歯が1本足りないこと自体は、特別に重い病気というわけではありませんので、まずはご安心ください。
放置するデメリット(見た目・噛み合わせへの影響)
前歯が3本(特に下が3本、上が4本)の場合、成長に伴って以下のような問題が起こりやすくなります。
- 正中(真ん中)のズレ: 上下の歯の本数が違うため、歯列の真ん中(正中)がズレやすくなります。これが顔の印象に違和感を与えることがあります。
- すきっ歯(空隙歯列): 足りない1本分のスペースが隙間として残ってしまったり、逆に隣の歯が倒れ込んできたりして、全体の歯並びが不安定になることがあります。
- 噛み合わせの悪化: 上下の歯が正しく噛み合わない(不正咬合)と、特定の歯に過度な負担がかかって歯の寿命を縮めたり、清掃性が悪化して虫歯や歯周病のリスクを高めたり、場合によっては顎関節に影響が出たりする可能性があります。
主な治療法の選択肢(スペースを作る vs 閉じる)
治療法は大きく分けて2つあります。どちらが良いかは、全体の噛み合わせ、顎の大きさ、骨の状態、そして患者さんのご希望(見た目、費用、期間)によって総合的に決定されます。
- 【スペースを閉じる】矯正治療で3本のまま隙間をなくす方法:
残っている3本の前歯をバランスよく並べ直して、隙間を完全に閉じてしまう方法です。
メリット: 治療が矯正のみで完結し、インプラント等の外科処置や補綴物(被せ物)が不要です。
デメリット: 上下の正中はズレたままになることを許容する必要があります。全体のバランスを取るのが難しい場合があります。 - 【スペースを作る】矯正治療で4本目のスペースを作り、補う方法:
矯正治療で歯を動かし、足りない1本分の「あるべきスペース」を意図的に確保します。
メリット: 上下の正中を合わせやすく、4本の前歯がある理想的な見た目と機能的な噛み合わせを再現できます。
デメリット: 矯正治療後、その確保したスペースにインプラントやブリッジなどで人工の歯を入れる必要があります。別途、追加の治療期間と費用(外科処置費や補綴費)が発生します。
パターン2:「矯正抜歯」スリーインサイザー治療のメリット
次に、あえて前歯を1本抜いて3本にする「意図的抜歯」としてのスリーインサイザー矯正です。これは主に、歯のガタガタ(叢生)が非常に強い場合の選択肢となりますが、相応のメリットがあるからこそ提案される手法でもあります。
メリット1:全体の治療期間が短くなる可能性
前歯を抜歯すると、最もスペースが必要な「前歯のガタガタ」のすぐ近くに、大きなスペースを効率よく確保できます。奥歯(小臼歯)を抜歯した場合、奥歯から前歯まで歯を大きく移動させる必要がありますが、前歯抜歯ならその移動量が少なくて済むケースがあります。結果として、全体の治療期間の短縮が期待できる場合があります。
メリット2:奥歯の抜歯(4本抜歯)を避けられる
重度の叢生を治すための一般的な矯正治療では、スペース確保のために上下左右の奥歯(小臼歯)を計4本抜歯することがあります。
スリーインサイザー矯正を選択することで、この奥歯(特に健康な小臼歯)の抜歯を避けられる(あるいは本数を減らせる)可能性があります。これは、「できるだけ自分の歯を残したい」という患者さんの負担軽減に繋がります。
メリット3:重度の叢生(ガタガタ)を解消しやすい
特に下の前歯が重なり合って、歯が前後に飛び出しているような極めて重度の叢生の場合、前歯を1本抜くことで劇的にスペースが生まれ、残りの歯をキレイに歯列に並べ直すことが可能になります。他の方法ではスペース確保が困難な場合の、有効な一手となり得ます。
【最重要】矯正抜歯で後悔しないためのデメリットと全リスク
歯科医師から「下の前歯を1本抜いて(スリーインサイザーにして)矯正しましょう」と提案され、今まさに悩んでいませんか?
奥歯ではなく「前歯」を、しかも「健康な歯」を抜くという選択に、「本当に抜いてしまって大丈夫?」「将来、後悔しない?」と不安になるのは当然のことです。
確かに、前章で述べたようなメリットがある一方で、前歯を1本抜くスリーインサイザー矯正には、他の抜歯矯正(小臼歯抜歯)にはない、特有の重大なデメリットとリスクが存在します。
はっきり申し上げると、この治療法は、歯科医師の非常に高度な技術と精密な診断、そして豊富な経験を必要とします。診断や技術が伴わないまま安易に決断すると、「こんなはずじゃなかった」という取り返しのつかない後悔に繋がる可能性もゼロではありません。
この章では、あなたが「後悔しない選択」をするために、治療に踏み切る前に必ず知っておくべきデメリットと全リスクを、包み隠さず徹底解説します。
デメリット1:顔の真ん中(正中)がズレやすい
これが最大のデメリットと言っても過言ではありません。
上の前歯は4本(または2本)、下の前歯は3本(または1本)と、上下で歯の本数が「奇数と偶数」になります。そのため、上下の歯の真ん中(正中)をぴったり合わせることが物理的に不可能になるケースがほとんどです。
この「ズレ」が、治療後に鏡を見たとき、あるいは笑ったときにどれだけ気になるか。この「正中のズレ」を、あなたが審美的に許容できるかどうかが最大のポイントです。
デメリット2:噛み合わせの調整が非常に難しい
奇数の歯列と偶数の歯列を、上下で緊密に噛み合わせる(機能的な咬合を確立する)のは、パズルのピースが合わないようなもので、極めて高度な技術と調整が求められます。
単に前歯が並べば良いわけではなく、奥歯も含めた全体の噛み合わせが不安定になると、将来的に顎関節症を引き起こしたり、特定の歯に負担が集中して歯の寿命を縮めたりするリスクがあります。担当する医師の技量によって、治療の「仕上がり」が大きく左右される、非常にシビアな治療法なのです。
デメリット3:ブラックトライアンングルや見た目の違和感
下の前歯はもともと細く、三角形に近い形をしています。この歯を抜歯してスペースを閉じると、歯と歯茎の間に「ブラックトライアンングル」と呼ばれる黒い三角形の隙間ができやすくなることがあります。これは清掃性の問題だけでなく、見た目にも影響します。
また、3本の前歯で4本分のアーチをカバーするため、1本1本の歯の傾き(角度)に無理が生じたり、治療後に「何かイメージと違う」といった見た目の違和感を覚えたりする可能性もゼロではありません。
補足:スリーインサイザー矯正は「失敗」しやすい?
「失敗」という言葉はセンシティブですが、「患者さんの満足度が低くなりやすい、難易度の高い治療法」であることは事実です。
これは、治療そのものの技術的な難しさに加え、
「治療前に、医師と患者との間で『仕上がりのイメージ(特に正中のズレ)』が共有できていなかった」
というミスマッチが原因であることが多いです。
「正中はズレるが、ガタガタは治る」というゴールを双方が深く理解し、納得した上でないと、「成功」とは言えない治療法です。
スリーインサイザー矯正の費用と期間の目安
スリーインサイザーが「先天性」か「矯正抜歯」か、また選択する治療法によって、必要な費用や期間は大きく異なります。
治療にかかる費用の相場(部分矯正 vs 全体矯正)
先天性欠如で、かつ厚生労働省の定める特定の疾患(※唇顎口蓋裂など)に該当しない限り、スリーインサイザーの治療は原則として自由診療(保険適用外)です。
※先天性欠如は、厚生労働省が定める特定の先天性疾患に付随する場合、矯正治療が保険適用となるケースがあります。ご自身のケースが該当するかどうか、詳細は専門医にご確認ください。
費用は、治療の難易度、使用する装置(表側矯正、裏側矯正、マウスピース矯正など)によって大きく変動します。
- 部分矯正(前歯周辺のみで対応可能な場合): 約30万円 ~ 60万円
- 全体矯正(奥歯も含む全ての歯を動かす場合): 約70万円 ~ 120万円
【重要】追加費用の可能性
先天性欠如で、矯正治療後にスペースを作って歯を補う(パターン1-2)場合、上記の矯正費用とは別途、以下の費用がかかります。
- インプラント治療費: 約30万円 ~ 50万円(1本あたり)
- ブリッジ・セラミック等の補綴治療費: 約10万円 ~ 20万円
※上記はあくまで目安であり、検査料・診断料・毎月の調整料が別途かかる医院もあります。必ず総額(トータルフィー)を確認しましょう。
治療期間はどれくらい?
治療内容によって、期間も大きく変動します。
- 矯正抜歯でスペースを閉じる場合(パターン2):
比較的短く済む傾向があり、約1年半 ~ 2年半程度が目安です。 - 先天性でスペースを作りインプラントを入れる場合(パターン1-2):
矯正治療自体に約2年 ~ 3年、さらに矯正終了後に顎の骨が安定し、インプラント治療(外科手術と補綴物の装着)が完了するまでに半年~1年程度の期間が追加で必要になることがあります。
後悔しないために。スリーインサイザー治療の歯科医院選び
ここまで読んでいただければ、スリーインサイザー治療、特に「前歯の抜歯」を伴うケースが、いかに難易度が高く、慎重な判断を要する治療かがお分かりいただけたと思います。
だからこそ、信頼できる医院・医師を選ぶことが、他のどんな治療よりも重要になります。
「スリーインサイザー矯正」の経験が豊富な医師を選ぶ
この治療法の最大のカギは、紛れもなく「医師の診断力・経験・技術」です。
「公益社団法人 日本矯正歯科学会」の「認定医」や「専門医」といった資格は、一定の基準を満たした医師であるという一つの目安になりますが、それ以上に、あなたと似た「スリーインサイザー」の症例(先天性・抜歯問わず)を実際に手がけ、キレイに治した経験が豊富かどうかが重要です。
カウンセリングの際に、言葉だけでなく、具体的な症例写真(ビフォーアフター)をしっかり見せてもらえるか確認しましょう。経験豊富な医師であれば、メリットだけでなく、デメリットやリスクについても明確に、自信を持って説明してくれるはずです。
セカンドオピニオンを必ず受けるべき理由
特に「前歯の抜歯」を提案された場合は、絶対に即決しないでください。
その治療法が本当にあなたにとってベストなのか、他に選択肢(例えば、奥歯の小臼歯抜歯や、歯列を拡大する非抜歯矯正など)はないのか、必ず別の矯正専門歯科医院でセカンドオピニオン(第二の意見)を聞きましょう。
複数の専門家の意見を聞き、それぞれのメリット・デメリットを比較検討することで、初めて「納得のいく決断」ができるのです。こうした医院探しについては、患者さん向けの情報を多く発信している日本臨床矯正歯科医会のような専門医団体のウェブサイトも参考にできます。
カウンセリングで確認すべき3つの質問
カウンセリングでは、以下の3つ(特に3番目)を必ず勇気を持って質問してください。
- 「なぜ、私の場合は他の方法(小臼歯抜歯など)ではなく、スリーインサイザー治療(前歯抜歯)がベストだとお考えですか?」
(→明確な診断根拠を聞き出します) - 「治療後、正中(真ん中)はどれくらいズレますか? それをシミュレーション等で具体的に見せていただくことは可能ですか?」
(→仕上がりのゴールイメージを共有します) - 「この治療法で起こりうる最大のリスク(デメリット)と、もしそれが起きた場合の対処法を教えてください」 (→医師のリスク管理能力と誠実さを確認します)
医療法人 札幌矯正歯科 宮の沢エミル矯正歯科では矯正相談を行っています
スリーインサイザーは、先天性であれ矯正抜歯であれ、患者さんにとっては非常に大きな悩みであり、人生の岐路とも言える決断です。
当院(医療法人 札幌矯正歯科 宮の沢エミル矯正歯科)では、日本矯正歯科学会の「認定医」が在籍し、CTやセファロ(頭部X線規格写真)などの精密な検査データに基づいた「科学的根拠(エビデンス)のある診断」を何よりも大切にしています。
スリーインサイザー治療は確かに難易度の高い治療ですが、当院では豊富な経験に基づき、なぜその治療が必要なのか、どのようなリスクがあり、どのような仕上がりが予測されるのかを、シミュレーション画像なども用いながらメリット・デメリットを隠さず丁寧にご説明します。
セカンドオピニオンとしてのご相談も心から歓迎しております。
「前歯が3本しかない…」「前歯を抜くと言われて不安…」と一人で悩んでいる方は、ぜひ一度、当院の無料の矯正相談にお越しください。あなたの状況とご希望に合わせた最適な治療法を、ご一緒に誠心誠意考えます。
札幌で矯正歯科を検討中の方は、ぜひ医療法人 札幌矯正歯科 宮の沢エミル矯正歯科でご相談ください。矯正治療のご相談をご希望の方は、下記のボタンよりお気軽にご予約ください。
この記事の監修者

尾立 卓弥(おだち たくや)
医療法人札幌矯正歯科 理事長
宮の沢エミル矯正歯科 院長
北海道札幌市の矯正専門クリニック「宮の沢エミル矯正歯科」院長。
日本矯正歯科学会 認定医。

