MFT(口腔筋機能療法)とは?歯科で行うトレーニングの種類と選び方
MFT(口腔筋機能療法)とは何か、歯科での具体的なトレーニング種類や選び方、費用まで知りたい方へ。この記事を読めば、舌癖や口呼吸、歯並び改善に繋がるMFTの基本から、子供や大人が歯科医院で受ける流れ、注意点まで全て分かります。MFTは口周りの筋肉を整える重要な療法であり、効果的な実践には歯科医師との相談と正しいトレーニングの継続が不可欠です。
1. MFT 口腔筋機能療法とは何か 基本を解説
近年、歯科の分野で注目を集めている「MFT(エムエフティー)」。これはMyofunctional Therapy(マイオファンクショナル セラピー)の略称で、日本語では「口腔筋機能療法(こうくうきんきのうりょうほう)」と呼ばれます。矯正治療を受けている方や、お子様の歯並びに関心のある保護者の方々の中には、耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。この章では、MFTとは具体的にどのようなものなのか、その基本的な定義から目的、そして期待される効果について詳しく解説していきます。日本口腔機能療法学会について知りたい方は、ホームページをご覧ください。
1.1 MFTの定義 口腔周囲の筋肉を整える療法
MFT(口腔筋機能療法)とは、お口周りの筋肉、すなわち舌、唇、頬などの筋肉(口腔周囲筋)のバランスを整え、正しく機能させるためのトレーニングプログラムです。私たちは普段、意識することなく食事をしたり、話したり、呼吸したりしていますが、これらの動作はすべて口腔周囲筋の複雑な連携によって成り立っています。しかし、指しゃぶりや爪噛み、口呼吸、舌で歯を押す癖(舌突出癖)などの悪習癖があると、これらの筋肉のバランスが崩れ、機能が低下してしまうことがあります。
MFTは、単なる筋力トレーニングとは異なります。特定の筋肉を鍛えるだけでなく、筋肉同士の協調性を高め、舌の正しい位置(安静時・嚥下時)、正しい飲み込み方(嚥下)、正しい発音、鼻呼吸といった生理的な機能を正常化・習慣化させることを目指す「療法」です。歯科医師や歯科衛生士、専門のトレーニングを受けた言語聴覚士などの指導のもとで行われることが一般的です。
口腔周囲筋のアンバランスは、見た目の問題だけでなく、歯並びや顎の成長、さらには全身の健康にも影響を及ぼす可能性があるため、早期に発見し、適切な対応をとることが重要です。
1.2 MFTの目的 正しい舌の位置や嚥下 発音を促す
MFT(口腔筋機能療法)は、口腔周囲筋の不調和によって引き起こされる様々な問題を改善するために、以下のような具体的な目的を持って行われます。
- 正しい舌の位置の獲得: 安静時に舌の先が上顎の「スポット」と呼ばれる位置(上の前歯の少し後ろの膨らんだ部分)にあり、舌全体が上顎に軽く吸い付いている状態を覚えます。舌が低い位置にある「低位舌」や、舌で歯を押す癖は、歯並びを悪化させる大きな原因となります。
- 正しい嚥下(飲み込み)パターンの習得: 食べ物や飲み物を飲み込む際に、舌が歯を押したり、唇や頬の筋肉を過剰に使ったりする異常嚥下癖を改善し、舌を上顎に押し付けて波打つようにして飲み込む正しい嚥下パターンを身につけます。これにより、歯列への不必要な圧力を防ぎます。
- 正しい発音のサポート: 特定の音(例:サ行、タ行、ラ行など)が不明瞭になる発音障害(構音障害)は、舌や唇の動きの誤りが原因となっている場合があります。MFTによって舌や唇の正しい動きを習得することで、明瞭な発音を促します。
- 鼻呼吸の習慣化: 口で呼吸する「口呼吸」は、口腔内の乾燥、虫歯や歯周病のリスク増加、免疫力の低下、顔貌の変化など、多くの問題を引き起こします。MFTは、唇を閉じる筋肉(口輪筋)を鍛え、舌を正しい位置に保つことで、自然な鼻呼吸を促します。
- 口唇閉鎖力の向上: 無意識のうちに口がポカンと開いてしまう「お口ポカン(口唇閉鎖不全)」は、口呼吸を誘発するだけでなく、見た目の印象にも影響します。MFTによって唇を閉じる力を強化し、自然な口元の状態を目指します。
これらの目的は互いに関連しており、MFTを通じて口腔機能全体の調和を取り戻すことを目指します。
1.3 MFTで期待できる効果 歯並びや顔貌への影響も
MFT(口腔筋機能療法)を継続的に行うことで、様々な効果が期待できます。特に、歯並びや顔貌への良い影響は、MFTが注目される大きな理由の一つです。
期待できる主な効果を以下にまとめます。
分類 | 期待できる効果 | 詳細 |
---|---|---|
歯並び・咬合 | 不正咬合の予防・改善 | 舌癖や口呼吸などが原因で起こる出っ歯(上顎前突)、受け口(下顎前突)、開咬(前歯が噛み合わない)、叢生(ガタガタの歯並び)などのリスクを低減、または改善をサポートします。 |
歯並び・咬合 | 矯正治療の効果促進と後戻り防止 | 歯並びを悪化させる根本的な原因である筋肉の不調和を改善するため、矯正治療がスムーズに進みやすくなり、治療後の歯並びが元に戻ってしまう「後戻り」を防ぐ効果が期待できます。 |
顔貌・発育 | 口元の印象改善 | 口輪筋が鍛えられ、口唇閉鎖不全(お口ポカン)が改善されることで、引き締まった口元になります。 |
顔貌・発育 | 顎骨の健やかな成長発育の促進 | 特に成長期のお子様において、正しい舌の位置や鼻呼吸は、上顎骨の適切な成長を促し、将来的な歯並びや顔貌の土台作りに貢献します。 |
口腔機能 | 正しい嚥下パターンの獲得 | 食べこぼしや食事中のクチャクチャ音の改善、消化の助けにもつながります。 |
口腔機能 | 明瞭な発音のサポート | 舌や唇の動きが改善されることで、滑舌が良くなることが期待できます。 |
呼吸・その他 | 鼻呼吸の習慣化 | 口呼吸による口腔乾燥、虫歯・歯周病リスク、感染症リスクの低減につながります。 |
呼吸・その他 | いびき・睡眠の質の改善 | 舌の位置が安定し、気道が確保されやすくなることで、いびきや睡眠時無呼吸症候群(SAS)の症状緩和につながる可能性があります。 |
呼吸・その他 | 顎関節症の症状緩和 | 口腔周囲筋のバランスが整うことで、顎関節への負担が軽減される場合があります。 |
ただし、MFTの効果には個人差があり、効果が現れるまでには一定期間、継続的なトレーニングが必要です。また、MFTだけで全ての歯並びの問題が解決するわけではなく、必要に応じて矯正治療など他の歯科治療との連携が重要になります。
2. 歯科でMFT 口腔筋機能療法が必要とされるケース
MFT(口腔筋機能療法)は、特定の問題を抱えている場合に歯科医師から推奨されることがあります。口の周りの筋肉のバランスは、歯並びや顎の成長、さらには全身の健康にも影響を与えるため、その機能改善は非常に重要です。ここでは、どのような場合に歯科でMFTが必要とされるのか、具体的なケースについて詳しく解説します。
2.1 MFTの対象となる主な症状 舌癖や口呼吸など
MFTは、口腔周囲筋の不調和によって引き起こされる様々な症状の改善を目指します。もし以下のような症状に心当たりがある場合、MFTの適応となる可能性があります。
主な症状 | 概要と起こりうる影響 | MFTによるアプローチ例 |
---|---|---|
舌癖(ぜつへき) | 安静時や嚥下(飲み込み)、発音時に舌が不適切な位置にある、または動く癖。例えば、常に舌が低い位置にある「低位舌(ていいぜつ)」、飲み込む際に舌を前歯に押し付ける「舌突出癖(ぜつとっしゅつへき)」などがあります。これらは開咬(前歯が噛み合わない)、上顎前突(出っ歯)、空隙歯列(すきっ歯)などの不正咬合や発音障害(サ行、タ行など)の原因となり得ます。 | 舌の正しい安静時ポジション(スポット)や、正しい嚥下運動を覚えるトレーニングを行います。 |
口呼吸(こうこきゅう) | 鼻ではなく口で呼吸することが習慣化している状態。口が常に開いているため、口腔内が乾燥しやすく、虫歯や歯周病のリスクが高まります。また、舌が下がりやすく低位舌を誘発し、顎の成長不全や歯列不正(アデノイド様顔貌など)につながる可能性があります。いびきや睡眠時無呼吸症候群との関連も指摘されています。 | 鼻呼吸を促すトレーニングや、口唇閉鎖力を高めるトレーニングを行います。 |
異常嚥下癖(いじょうえんげへき) | 食べ物や飲み物を飲み込む際に、舌を前歯に押し付けたり、唇や頬の筋肉を過剰に使ったりする癖。舌突出癖もこれに含まれます。歯列への不適切な圧力がかかり、開咬や上顎前突などを引き起こす原因となります。 | 正しい嚥下パターンを習得するためのトレーニングを行います。舌や唇、頬の筋肉の協調性を高めます。 |
指しゃぶり・爪噛み・唇を噛む癖など | 指しゃぶり(吸指癖)や爪噛み(咬爪癖)、唇を吸ったり噛んだりする癖(咬唇癖)なども、長期化すると歯並びや顎の形に悪影響を与える可能性があります。例えば、指しゃぶりは開咬や上顎前突の原因になりやすいです。 | これらの癖の多くは無意識に行われるため、MFTでは意識化を促し、代わりとなる正しい筋肉の使い方を指導します。心理的なアプローチが必要な場合もあります。 |
発音障害(機能性構音障害) | 特定の音が正しく発音できない状態のうち、舌や唇の動き、使い方に問題があるケース。例えばサ行が「シャ行」になったり、タ行が不明瞭になったりすることがあります。これは舌癖と関連していることも多いです。 | 正しい舌や唇の位置、動かし方を習得し、目標とする音を正確に発音できるようにトレーニングします。 |
咀嚼・嚥下機能の問題 | 食べ物をうまく噛めない、飲み込みにくい、むせやすいなどの症状。加齢による機能低下(オーラルフレイル)の一部としても見られますが、若い世代でも筋肉の不調和により起こることがあります。 | 咀嚼や嚥下に関わる筋肉をバランスよく使えるようにトレーニングし、スムーズな食事をサポートします。 |
これらの症状は単独で現れることもありますが、複数が関連し合っているケースも少なくありません。気になる症状があれば、まずは歯科医師に相談し、MFTの必要性について診断を受けることが大切です。
2.2 子供におけるMFTの重要性 成長期の歯並びや顎の発達
子供の成長期は、骨格や歯並びが形成される非常に重要な時期です。この時期における口腔周囲筋の機能は、顎顔面の健やかな発育に直接的な影響を与えます。
例えば、常に口を開けている口呼吸や、舌が低い位置にある低位舌は、上顎の成長を抑制し、下顎が後退したり、歯が並ぶスペースが不足したりする原因となります。その結果、叢生(乱ぐい歯)や上顎前突、交叉咬合(こうさこうごう)といった不正咬合を引き起こしやすくなります。
また、正しい嚥下運動ができていないと、飲み込むたびに舌で歯を押し出してしまい、開咬などの原因になります。指しゃぶりなどの癖も同様に、歯並びを悪化させる要因です。
成長期にMFTを行うことの最大のメリットは、口腔周囲筋のバランスを整えることで、顎骨の正常な発育を促し、歯が本来あるべき位置に自然に並ぶための土台を作れる点にあります。これにより、将来的な本格的な矯正治療の必要性を軽減したり、治療期間を短縮したりできる可能性があります。いわば、「歯並びが悪くなる原因」そのものにアプローチするのが、子供におけるMFTの大きな意義と言えるでしょう。小児歯科や矯正歯科では、早期にこれらの問題を発見し、MFTによる介入を行うことで、より良い成長をサポートしています。
2.3 大人も対象となるMFT 矯正治療との関連性
MFTは子供だけのものではありません。大人になってからでも、口腔周囲筋の機能改善は様々なメリットをもたらします。特に歯科矯正治療を受けている方、または治療を終えた方にとって、MFTは重要な役割を果たすことがあります。
大人の場合、長年にわたる舌癖や口呼吸などの悪習癖が、現在の歯並びの乱れや顎関節症などの根本的な原因となっているケースが少なくありません。矯正治療によって歯並びを整えても、その原因となった筋肉のアンバランスが解消されていなければ、治療後に歯が元の位置に戻ろうとする「後戻り」のリスクが高まります。
そのため、矯正治療中や治療後にMFTを併用することで、舌や唇の正しい位置・動きを習得し、筋肉のバランスを整えることが推奨されます。これにより、矯正治療で得られた美しい歯並びと良好な咬合を長期的に安定させることが期待できます。まさに、矯正治療の効果を最大限に引き出し、維持するためのサポートとしてMFTが活用されるのです。「マウスピースが後戻りしやすいですか?」とよく聞かれますので、ブログ記事にまとめました。
また、矯正治療とは直接関係なくとも、滑舌の改善、いびきの軽減、口元の審美性の向上(引き締まった口元など)、さらには加齢に伴う口腔機能の低下(オーラルフレイル)の予防といった目的で、大人がMFTに取り組むケースもあります。正しい筋肉の使い方は、生涯にわたる口腔の健康維持に貢献します。
3. 歯科で行うMFT 口腔筋機能療法の具体的なトレーニング種類
MFT(口腔筋機能療法)は、お口周りの筋肉のバランスを整え、正しい機能を獲得するためのトレーニングです。歯科医院では、患者さん一人ひとりの症状や年齢、ライフスタイルに合わせて、様々なトレーニングを組み合わせて指導します。ここでは、代表的なMFTのトレーニング種類とその目的、具体的な方法について詳しく解説します。
これらのトレーニングは、歯科医師や歯科衛生士、専門のトレーニングを受けたスタッフの指導のもとで正しく行うことが非常に重要です。自己流で行うと、かえって症状を悪化させてしまう可能性もあるため、必ず専門家のアドバイスを受けながら進めましょう。
3.1 舌のトレーニング 正しい位置と動きを覚える
舌は、話す、食べる、飲み込むといった基本的な機能はもちろん、歯並びや顎の成長にも大きな影響を与える重要な器官です。舌のトレーニングでは、舌の正しい安静時の位置(スポットポジション)を覚え、嚥下や発音時の適切な動きを習得することを目指します。
舌の力が弱かったり、間違った位置にあったりする(低位舌や舌突出癖)と、歯並びの乱れ(開咬、上顎前突など)や発音の問題、口呼吸などを引き起こす原因となります。
3.1.1 ポッピングトレーニング
ポッピングトレーニングは、舌全体を上顎に吸い付け、その状態から「ポンッ」と音を立てて舌を打ち下ろすトレーニングです。舌を持ち上げる筋肉(舌挙筋群)を効果的に鍛えることができます。
【目的】
- 舌を上顎に引き上げる筋力の強化
- 舌の正しい位置への意識付け
- 嚥下時の舌の動きの改善
【方法】
- 舌の先をスポット(上の前歯のすぐ後ろの少し膨らんだ部分)につけます。
- 舌全体を吸盤のように上顎にぴったりと吸い付けます。
- 口を大きく開けたまま、舌で「ポンッ」と良い音を鳴らします。(この時、下顎が動かないように注意しましょう)
- 10回~15回を1セットとし、1日数回行います。
【注意点】
- 正しい音が出ているか確認しましょう。「チュッ」というような音ではなく、「ポンッ」という破裂音が理想です。
- 下顎を動かさず、舌の力だけで行うことがポイントです。
- 最初は難しいかもしれませんが、鏡を見ながら練習すると良いでしょう。
3.1.2 スポットトレーニング
スポットトレーニングは、MFTの基本中の基本とも言えるトレーニングです。舌の先端を正しい位置(スポット)に置き、舌全体を上顎につける感覚を覚えることを目的としています。
【目的】
- 舌の正しい安静時位置(スポットポジション)の習得
- 鼻呼吸の促進
- 舌突出癖の改善
【方法】
- リラックスした状態で、軽く口を閉じます。
- 舌の先端を、上の前歯の付け根の後ろにある少し膨らんだ部分(スポット)に軽く触れさせます。
- 舌全体を、スポットを中心に上顎に吸い付けるように意識します。この時、舌が下の前歯に触れたり、歯と歯の間から出たりしないように注意します。
- この状態を意識的にキープします。最初は数秒から始め、徐々に時間を延ばしていきます。
- 日常生活の中で、気づいた時にスポットを意識する習慣をつけましょう。
【ポイント】
- 舌先に力を入れすぎず、リラックスして行いましょう。
- 舌全体が上顎についている感覚をつかむことが大切です。
- ガムなどをスポットにつけて、それを舌先で触る練習も効果的です。
3.1.3 舌回しトレーニング
舌回しトレーニングは、口を閉じた状態で舌を歯茎の外側に沿って大きく回す運動です。舌だけでなく、唇や頬の筋肉も同時に鍛えることができ、口腔周囲筋全体の柔軟性と筋力アップに繋がります。
【目的】
- 舌の可動域の拡大と筋力強化
- 口輪筋や頬筋のトレーニング
- 唾液分泌の促進
- ほうれい線の改善(美容効果も期待されることがあります)
【方法】
- 唇を軽く閉じます。
- 舌の先で、上の歯茎の外側を右端から左端へゆっくりとなぞります。
- そのまま下の歯茎の外側を左端から右端へなぞり、一周させます。
- できるだけ大きく、ゆっくりと、歯茎全体をなぞるように意識します。
- 右回り、左回りをそれぞれ10周~20周程度行います。
【注意点】
- 顎関節に痛みがある場合は無理に行わないでください。
- 最初は筋肉が疲れるかもしれませんが、徐々に慣らしていきましょう。
- 早く回すのではなく、ゆっくりと丁寧に行うことが効果を高めるポイントです。
3.2 唇や頬の筋肉トレーニング 口唇閉鎖力を高める
唇や頬の筋肉が弱いと、口がポカンと開いてしまう「口唇閉鎖不全」の状態になりやすく、口呼吸の原因となります。口呼吸は、口腔乾燥、虫歯や歯周病のリスク増加、口臭、歯並びへの悪影響など、様々な問題を引き起こします。ここでは、唇を閉じる力(口唇閉鎖力)を高め、鼻呼吸を促すためのトレーニングを紹介します。
3.2.1 ボタンストリングトレーニング
ボタンストリングトレーニングは、糸を通した大きめのボタンを唇と歯の間に入れ、唇の力だけでボタンが口から飛び出さないように保持するトレーニングです。口輪筋(唇周りの筋肉)を集中的に鍛えるのに効果的です。
【目的】
- 口輪筋の筋力強化
- 口唇閉鎖力の向上
- 口呼吸の改善
【方法】
- 清潔な大きめのボタン(直径2.5~3cm程度)に、デンタルフロスなどの丈夫な糸を通します。
- ボタンを唇と前歯の間に入れます。
- 唇をしっかりと閉じ、糸を軽く前方に引っ張ります。
- 唇の力だけでボタンが口から出ないように、数秒間キープします。(歯科医師の指示に従った時間)
- これを数回繰り返します。
【注意点】
- ボタンの大きさや引っ張る強さ、保持時間は、歯科医師や専門家の指示に従ってください。
- 歯でボタンを噛まないように注意しましょう。あくまで唇の力だけで保持します。
- 誤飲を防ぐため、必ず糸をつけて行い、小さなお子様が行う場合は保護者が見守りましょう。
3.2.2 リップトレーニング
リップトレーニングは、唇を様々な形に動かすことで、口輪筋や頬筋を鍛えるトレーニングの総称です。特別な道具を使わずに行える手軽な方法も多くあります。
【目的】
- 口輪筋、頬筋の筋力強化と柔軟性向上
- 口角の引き上げ
- 表情筋の活性化
【方法例】
- リッププレス:上下の唇を強く閉じ合わせ、数秒間キープする。
- リッププロトルージョン:唇を「ウー」の形にすぼめて前方に突き出し、数秒間キープする。
- リップスマイル:口角を左右に大きく引き、「イー」の形にして数秒間キープする。
- パタカラ運動:「パ」「タ」「カ」「ラ」の音を、口を大きく動かしながらはっきりと発音する。(発音トレーニングにも含まれます)
これらの動きを、それぞれ10回程度、1日数回行います。鏡を見ながら、口周りの筋肉がしっかりと動いているか確認しながら行うと効果的です。
3.3 嚥下トレーニング 正しい飲み込み方を習得
食べ物や飲み物、唾液を飲み込む動作を「嚥下(えんげ)」と言います。正しい嚥下では、舌は上顎にしっかりと押し付けられ、食べ物を喉の奥へと送り込みます。しかし、舌突出癖などがあると、嚥下時に舌が前歯を押してしまう「異常嚥下癖」が見られます。これは、開咬(前歯が噛み合わない)などの歯並びの問題を引き起こす大きな原因となります。
嚥下トレーニングでは、舌をスポットにつけたまま、正しく飲み込む動きを反復練習し、体に覚え込ませます。
【目的】
- 正しい嚥下パターンの習得
- 異常嚥下癖の改善
- 舌突出による歯列への悪影響の防止
【方法例】
- 少量の水や唾液を口に含みます。
- 舌の先をスポットにつけ、舌全体を上顎に吸い付けます。
- 歯を軽く噛み合わせ、唇を閉じます。
- 舌をスポットにつけたまま、背筋を伸ばして「ゴクン」と飲み込みます。この時、舌が前に出たり、唇や頬に余計な力が入ったりしないように意識します。
- 最初は難しいので、一口ずつゆっくりと、意識して行います。
【ポイント】
- 飲み込む瞬間に、唇が開いたり、下唇やオトガイ(下顎の先端)に力が入って梅干しのようなシワができたりしないかチェックしましょう。
- 嚥下トレーニングは、誤嚥(食べ物や飲み物が気管に入ること)のリスクも伴うため、必ず専門家の指導のもとで、安全な方法で行う必要があります。
3.4 発音トレーニング 特定の発音改善を目指す
舌や唇の動きが正しくないと、特定の音(サ行、タ行、ナ行、ラ行など)が不明瞭になることがあります。これを構音障害(こうおんしょうがい)と呼びます。MFTでは、これらの発音に関わる舌や唇の正しい位置や動きを練習し、明瞭な発音ができるようにトレーニングします。
【目的】
- 特定の発音(構音)の改善
- 舌や唇の巧緻性(器用さ)の向上
- コミュニケーション能力の向上
【方法】
- 苦手な音を含む単語や短い文章を、舌や唇の位置を意識しながらゆっくり、はっきりと発音する練習を行います。
- 例えば、サ行が苦手な場合は、舌先をスポットの少し後ろに近づけ、歯の間から息を出す練習をします。
- タ行やナ行、ラ行の場合は、舌先をスポットにしっかりとつける動きが重要になります。
- 発音のトレーニングは、言語聴覚士(ST)などの専門家による評価と指導が不可欠です。歯科医師が必要と判断した場合、連携してトレーニングを進めることもあります。
3.5 呼吸トレーニング 鼻呼吸を習慣化する
口呼吸は、前述の通り様々な問題を引き起こすため、意識的に鼻で呼吸する習慣を身につけることが非常に重要です。呼吸トレーニングでは、鼻呼吸を妨げる要因(鼻詰まりなどがあれば耳鼻咽喉科での治療が優先されます)がないか確認した上で、鼻呼吸を意識づける練習や、口を閉じる筋肉をサポートするトレーニングを行います。
【目的】
- 鼻呼吸の習慣化
- 口呼吸による様々なリスク(口腔乾燥、感染症、歯並びへの悪影響など)の軽減
- 口唇閉鎖力の向上
【方法例】
- 鼻呼吸の意識づけ:普段から口を閉じ、鼻で息をしているか意識する時間を設けます。深呼吸を鼻で行う練習も有効です。
- あいうべ体操:「あー」「いー」「うー」「べー(舌を出す)」と口を大きく動かす体操。口周りと舌の筋肉を鍛え、口が閉じやすくなり、鼻呼吸を促します。(考案:みらいクリニック 今井一彰先生)
- 口唇閉鎖テープの使用:就寝時などに、口が開いてしまうのを防ぐために専用のテープを貼る方法もあります。ただし、鼻呼吸が十分にできない場合(鼻炎やアデノイドなど)は危険なため、必ず医師に相談の上、指示に従って使用してください。
これらのトレーニングは、あくまで一般的な例です。実際の歯科医院では、患者さんの状態を詳細に診査・診断した上で、最適なトレーニングプログラムが個別に作成されます。根気強く続けることで、お口の機能は着実に改善していきます。
トレーニング分類 | 具体的なトレーニング例 | 主な目的 |
---|---|---|
舌のトレーニング | ポッピング、スポット、舌回し など | 正しい舌の位置・動きの習得、舌筋の強化 |
唇・頬のトレーニング | ボタンストリング、リップトレーニング など | 口唇閉鎖力の向上、口輪筋・頬筋の強化 |
嚥下トレーニング | スポット嚥下練習 など | 正しい嚥下パターンの習得、異常嚥下癖の改善 |
発音トレーニング | 特定音の発音練習、パタカラ運動 など | 構音障害の改善、舌・唇の巧緻性向上 |
呼吸トレーニング | 鼻呼吸の意識づけ、あいうべ体操 など | 鼻呼吸の習慣化、口呼吸の改善 |
4. 自分に合ったMFTトレーニングの選び方 歯科医師と相談しよう
MFT(口腔筋機能療法)は、口腔周囲の筋肉のバランスを整え、正しい機能を獲得するための重要なアプローチですが、そのトレーニング内容は多岐にわたります。やみくもにトレーニングを始めても、期待する効果が得られないばかりか、逆効果になってしまう可能性もあります。ここでは、ご自身の状況に最適なMFTトレーニングを見つけるためのポイントと、歯科医師との相談の重要性について解説します。効果的なMFTを進めるためには、専門家による適切な診断と指導が不可欠です。
4.1 症状や目的に合わせたトレーニングの選択
MFTが必要となる症状や、MFTを通して達成したい目的は人それぞれ異なります。そのため、まずはご自身の口腔内の状態や悩みを正確に把握し、それに合わせたトレーニングを選択することが重要です。歯科医師は、問診や視診、場合によってはレントゲン撮影や筋機能検査などを通して、問題の原因を特定し、最適なトレーニングメニューを提案します。
例えば、以下のような症状や目的によって、重点的に行うべきトレーニングの種類が変わってきます。
主な症状・目的 | 関連する主なMFTトレーニングの種類 | 簡単な説明 |
---|---|---|
舌癖(舌突出癖、低位舌など) | 舌のトレーニング(スポット、ポッピングなど) | 舌を正しい位置(スポット)に保持し、正しい動きを習得する。 |
口呼吸、口唇閉鎖不全 | 唇や頬の筋肉トレーニング(リップ、ボタンストリングなど)、呼吸トレーニング | 口を閉じる筋肉を強化し、鼻呼吸を習慣化させる。 |
異常嚥下癖(舌を突き出して飲み込む) | 嚥下トレーニング、舌のトレーニング | 舌や唇を使わず、正しい嚥下パターンを身につける。 |
発音の問題(サ行、タ行など) | 発音トレーニング、舌のトレーニング | 特定の音を発音する際の、正しい舌の位置や動きを練習する。 |
矯正治療の効果促進・後戻り防止 | 症状に応じた各種トレーニング(舌、唇、嚥下など) | 歯並びに悪影響を与える筋肉の癖を改善し、治療結果を安定させる。 |
顎関節症の症状緩和 | 舌のトレーニング、嚥下トレーニングなど | 顎関節への負担を軽減するような、正しい舌の位置や嚥下方法を習得する。 |
上記はあくまで一例であり、個々の状態はより複雑な場合が多くあります。自己判断せず、必ず歯科医師の診断を受け、どの筋肉にどのような問題があり、どのトレーニングが最も効果的かを判断してもらいましょう。複数のトレーニングを組み合わせることも一般的です。
4.2 年齢やライフスタイルに合わせたトレーニング計画
MFTは子供から大人まで幅広い年齢層が対象となりますが、年齢によってトレーニングの進め方やアプローチが異なります。また、日々の生活スタイルに合わせて無理なく続けられる計画を立てることも、成功の鍵となります。
子供の場合:
- 遊びの要素を取り入れる: ゲーム感覚で楽しく取り組めるような工夫が必要です。飽きさせずに継続することが重要です。
- 保護者の理解と協力: 家庭での練習が中心となるため、保護者がトレーニング内容を理解し、積極的にサポートすることが不可欠です。歯科医院での指導内容を家庭で再現できるよう、一緒に練習に参加することも有効です。
- 成長段階に合わせた調整: 顎骨や歯列の成長に合わせて、トレーニング内容や強度を適宜見直していく必要があります。
大人の場合:
- 目的意識とモチベーション維持: なぜMFTを行うのか、具体的な目標を設定し、意識して取り組むことが大切です。効果を実感することでモチベーションにつながります。
- ライフスタイルへの組み込み: 仕事や学業、家事などで忙しい場合でも、日常生活の中で無理なく実践できる時間帯や方法を見つけることが重要です。例えば、通勤時間や休憩時間、入浴中などを活用する方法があります。
- 矯正治療との連携: 大人の場合、矯正治療と並行してMFTを行うケースが多くあります。治療段階に合わせて、歯科医師や矯正専門医と連携しながらトレーニング計画を調整します。
歯科医師は、患者さんの年齢、性格、理解度、そして生活環境などを考慮し、一人ひとりに合わせたオーダーメイドのトレーニング計画を立案します。どのくらいの期間、どのくらいの頻度で、どのようなトレーニングを行うのが最適か、具体的なアドバイスを受けることができます。
4.3 歯科医師や専門家による指導の重要性
MFTのトレーニング方法は、インターネットや書籍などでも情報を得ることができますが、自己流で行うことにはリスクが伴います。正しいフォームで行えていない場合、効果が出ないだけでなく、かえって間違った筋肉の使い方を覚えてしまう可能性すらあります。
歯科医師や、MFTに関する専門知識を持つ歯科衛生士、場合によっては言語聴覚士などの専門家による指導を受けることには、以下のような重要なメリットがあります。
- 正確な診断に基づいた適切なトレーニング選択: 専門家は、口腔内の状態を詳細に評価し、問題の根本原因を特定した上で、最も効果的なトレーニングを提案します。
- 正しいフォームの習得: トレーニングの細かなポイントや注意点を直接指導してもらうことで、正しい筋肉の動かし方を確実に身につけることができます。鏡を使ったり、模型を使ったりしながら、分かりやすく指導してくれます。
- 客観的な進捗評価と計画修正: 定期的に通院し、トレーニングの成果を専門家の目で評価してもらうことで、モチベーションを維持しやすくなります。また、状況に応じてトレーニング内容や強度を適切に調整してもらえます。
- 疑問や不安の解消: トレーニングを進める中で生じる疑問や不安について、すぐに相談し、的確なアドバイスを受けることができます。
MFTは、単に口の体操をするということではありません。正しい知識と技術に基づいた専門家の指導のもとで、継続的に取り組むことが、MFTの効果を最大限に引き出し、目標達成への一番の近道となるのです。まずは信頼できる歯科医師を見つけ、相談することから始めましょう。
5. 歯科医院でのMFT 口腔筋機能療法の流れと注意点
MFT(口腔筋機能療法)は、歯科医師や歯科衛生士の指導のもとで行われる専門的なトレーニングです。ここでは、実際に歯科医院でMFTを受ける際の一般的な流れと、知っておきたい注意点について詳しく解説します。
5.1 初診からトレーニング開始までのステップ
MFTを始めるにあたり、まずは歯科医院を受診し、適切な診断と治療計画を立てる必要があります。一般的な流れは以下のようになりますが、医院によって多少異なる場合があります。
ステップ | 主な内容 | ポイント |
---|---|---|
1. 予約 | 電話やウェブサイトから初診の予約を取ります。 | MFTに関心があること、または具体的な症状(舌癖、口呼吸など)を伝えるとスムーズです。 |
2. 受付・問診票記入 | 来院後、受付を済ませ、問診票に現在の症状や悩み、既往歴などを記入します。 | できるだけ詳しく、正確に記入しましょう。お薬手帳があれば持参すると良いでしょう。 |
3. カウンセリング・問診 | 歯科医師または歯科衛生士が、問診票をもとに詳しくお話を伺います。 | どのようなことに困っているのか、MFTで何を改善したいのか、具体的に伝えましょう。疑問や不安な点も遠慮なく質問してください。 |
4. 口腔内診査・検査 | お口の中の状態(歯並び、噛み合わせ、舌や唇の状態など)を詳しく診査します。必要に応じて、口腔内写真撮影、レントゲン撮影、顔貌写真撮影、舌圧測定、嚥下機能検査などの各種検査を行います。 | これらの検査は、MFTの必要性や適切なトレーニング方法を判断するための重要な情報となります。 |
5. 診断・治療計画の説明 | 診査・検査結果をもとに、歯科医師が診断を行い、MFTの必要性、期待される効果、具体的なトレーニング内容、おおよその期間や頻度、費用などについて説明します。 | 分かりにくい点や疑問点は、納得できるまで質問することが大切です。矯正治療など他の治療との関連性についても説明がある場合があります。 |
6. 同意(インフォームドコンセント) | 治療計画に納得できたら、同意書にサインします。 | 無理に同意する必要はありません。一度持ち帰って検討することも可能です。 |
7. トレーニング開始 | 同意後、いよいよMFTトレーニングが開始されます。初回は、歯科衛生士など専門スタッフから、具体的なトレーニング方法や注意点について丁寧な指導を受けます。必要に応じてトレーニング用の器具(リップトレーナーなど)が渡されることもあります。 | 正しい方法をしっかり習得し、自宅でのトレーニングを開始します。 |
これらのステップを経て、個々の患者さんに合わせたMFTプログラムがスタートします。
5.2 MFTトレーニングの期間と頻度の目安
MFTトレーニングの効果を実感するには、ある程度の期間、継続して取り組むことが重要です。ただし、必要な期間や通院頻度は、症状の重さ、年齢、トレーニングへの取り組み度合い、目標設定などによって大きく異なります。
一般的な目安としては、以下のようになります。
- トレーニング期間:数ヶ月から1年以上かかることが一般的です。特に、長年の癖を改善する場合や、顎骨の成長に関わる場合は、年単位での取り組みが必要になることもあります。
- 通院頻度:
- 初期段階:週に1回~2週間に1回程度。正しいトレーニング方法を習得し、習慣化するための指導やチェックを重点的に行います。
- 安定期:月に1回程度。トレーニングの進捗状況を確認し、必要に応じて内容を調整したり、モチベーション維持のためのサポートを受けたりします。
重要なのは、歯科医院での指導だけでなく、自宅での毎日のトレーニングを欠かさず行うことです。1回のトレーニング時間は短くても、毎日続けることが効果につながります。矯正治療と並行して行う場合は、矯正治療の進行状況に合わせて期間や頻度が調整されることもあります。
5.3 MFTにかかる費用 保険適用の可否
MFT(口腔筋機能療法)にかかる費用は、多くの方が気になる点だと思います。費用体系は、保険適用の可否と自由診療のどちらになるかで大きく異なります。
原則として、MFT単独での治療は健康保険の適用外となり、自由診療(自費診療)となることがほとんどです。ただし、唇顎口蓋裂などの特定の先天性疾患に対する治療の一環として行われる場合や、一部の大学病院や専門機関で特定の条件下で保険適用が認められるケースも稀にありますが、一般的ではありません。
自由診療の場合、費用は各歯科医院が独自に設定しているため、医院によって大きく異なります。費用の内訳としては、以下のようなものが考えられます。
費用項目例 | 内容 | 費用の目安(あくまで一例) |
---|---|---|
初診相談料 | 初めて受診した際の相談にかかる費用。 | 無料~数千円程度 |
検査・診断料 | 口腔内診査、写真撮影、レントゲン、筋機能評価などの検査と診断にかかる費用。 | 数千円~数万円程度 |
トレーニング指導料 | 歯科衛生士などによるトレーニング指導にかかる費用。1回ごと、月額、コース料金など、医院によって設定が異なります。 | 1回あたり数千円~1万円程度 月額数千円~数万円程度 |
トレーニング器具代 | リップトレーナーやタングトレーニング器具など、自宅で使用する器具の購入費用。 | 数百円~数千円程度(器具による) |
総額としては、症状や期間によって数万円から数十万円程度になることが考えられます。初診相談の際に、費用体系や総額の目安について、しっかりと確認しておくことが重要です。支払い方法(分割払いなど)についても相談してみましょう。
なお、自由診療であっても、医療費控除の対象となる場合があります。詳しくは、お住まいの地域の税務署や税理士にご確認ください。
5.4 MFTトレーニングを続けるためのポイント
MFTは、効果を出すために継続が不可欠な治療法です。しかし、単調なトレーニングを毎日続けるのは、大人にとっても子供にとっても簡単なことではありません。ここでは、MFTトレーニングを楽しく、効果的に続けるためのポイントをいくつかご紹介します。
- 目標を明確にする:「鼻呼吸できるようになりたい」「滑舌を良くしたい」「きれいな歯並びを維持したい」など、具体的な目標を持つことで、モチベーションを維持しやすくなります。歯科医師や歯科衛生士と目標を共有しましょう。
- 習慣化する工夫をする:「歯磨きの後に必ず行う」「お風呂の時間に行う」など、毎日の生活の中にトレーニング時間を組み込むと続けやすくなります。トレーニングカレンダーを作成し、シールを貼るなど、視覚的に達成感を得られる工夫も有効です。
- 家族や周囲の協力を得る:特にお子さんの場合は、保護者の励ましやサポートが不可欠です。一緒にトレーニングを楽しんだり、できたことを褒めたりすることで、お子さんのやる気を引き出しましょう。
- 専門家との連携を密にする:定期的な通院は、トレーニング方法の確認や調整だけでなく、モチベーション維持のためにも重要です。疑問や不安、うまくいかないことがあれば、遠慮なく歯科医師や歯科衛生士に相談しましょう。適切なアドバイスや励ましが、継続の力になります。
- 記録をつける・変化を確認する:トレーニングの記録をつけたり、定期的に口腔内写真や顔貌写真を撮影してもらったりすることで、自分の頑張りや変化を客観的に確認できます。小さな変化でも実感できると、続ける意欲につながります。
- 楽しむ工夫を取り入れる:単調なトレーニングにならないよう、ゲーム感覚を取り入れたり、好きな音楽を聴きながら行ったりするのも良いでしょう。歯科医院によっては、楽しみながら続けられるアプリやツールを紹介してくれる場合もあります。
MFTは、すぐに効果が出るものではありませんが、地道に続けることで、口腔機能の改善だけでなく、歯並びや顔貌、全身の健康にも良い影響が期待できます。焦らず、諦めずに、専門家と協力しながらトレーニングに取り組んでいきましょう。
6. MFT 口腔筋機能療法に対応する歯科医院の探し方
MFT(口腔筋機能療法)は、専門的な知識と技術を要するため、どの歯科医院でも受けられるわけではありません。ここでは、MFTに対応している歯科医院を効率的に見つけるための具体的な方法と、確認すべきポイントについて解説します。
6.1 歯科医院のウェブサイトや専門資格を確認
MFTに対応している歯科医院を探す第一歩は、インターネットを活用することです。多くの歯科医院は公式ウェブサイトを開設しており、そこで診療内容や特色を確認できます。
ウェブサイトをチェックする際は、以下の点に注目しましょう。
- 「MFT」や「口腔筋機能療法」のキーワードがあるか:診療案内のページや、医院の特色を紹介するページに明記されているか確認します。
- 担当者の専門性:MFTを担当する歯科医師や歯科衛生士の経歴、研修歴、所属学会などが記載されているか確認します。例えば、「日本口腔筋機能療法学会」や関連する矯正歯科、小児歯科の学会に所属しているかどうかも参考になります。ただし、特定の資格がなければMFTを行えないわけではありません。
- 対象としている症状や年齢層:どのような症状(舌癖、口呼吸、嚥下障害など)に対してMFTを行っているか、子供専門なのか、大人も対象としているのかを確認します。
- 治療方針や内容:MFTをどのように治療計画に組み込んでいるか、他の治療(特に矯正治療)との連携について記載があるか確認します。症例紹介があれば、具体的なイメージが掴みやすくなります。
- 費用に関する情報:MFTは基本的に保険適用外の自由診療となることが多いため、費用体系について目安が記載されているか確認しましょう。
検索エンジンで探す場合は、「お住まいの地域名 歯科 MFT」や「地域名 歯科 口腔筋機能療法」、「地域名 矯正歯科 MFT」といったキーワードで検索すると、関連する歯科医院が見つかりやすくなります。当院では、ご希望の方にMFTを行っています。
ウェブサイトの情報だけでは不明な点も多いため、気になる歯科医院が見つかったら、電話で直接問い合わせてみることも有効です。MFTの実施状況、初診相談の可否、担当者の在籍などを具体的に確認しましょう。
確認項目 | 確認内容の例 |
---|---|
MFT実施の有無 | 「口腔筋機能療法」「MFT」といったキーワードが記載されているか、現在も対応しているか |
担当者の専門性 | 担当歯科医師・歯科衛生士のMFTに関する研修歴、所属学会、資格など(記載がない場合、問い合わせてみる) |
対象症状・年齢層 | 子供専門か、大人も対応か。舌癖、口呼吸、嚥下、発音など、どの症状に対応しているか |
治療方針・内容 | どのようなトレーニングを行うか、他の治療(矯正など)との連携体制はどうか |
費用・保険適用 | MFTの費用体系(相談料、検査料、トレーニング料など)、保険適用の可否(原則自費診療) |
予約・相談方法 | MFTに関する相談が可能か、初診予約の方法、相談にかかる時間や費用 |
6.2 矯正歯科や小児歯科での対応状況
MFTは、歯並びや顎の骨格形成と密接に関連しているため、矯正歯科や小児歯科で積極的に導入されているケースが多く見られます。
矯正歯科では、不正咬合(歯並びの乱れ)の原因が舌癖や口呼吸などの口腔習癖にある場合、歯列矯正と並行してMFTを行うことがあります。これにより、矯正治療の効果を高め、治療後の後戻りを防ぐことが期待できます。矯正治療を専門とする歯科医院のウェブサイトで、MFTへの取り組みについて確認してみましょう。「日本矯正歯科学会」の認定医や専門医が在籍する医院なども参考になります。
小児歯科では、子供の健やかな顎顔面の成長発育を促す観点からMFTが重要視されています。指しゃぶり、舌突出癖、口呼吸などの習癖は、早期に改善することが望ましいため、成長期に合わせたMFTプログラムを提供している場合があります。「日本小児歯科学会」の専門医が在籍する医院なども、子供のMFT相談先として考えられます。
ただし、MFTは矯正歯科や小児歯科だけの専門分野というわけではなく、一般歯科の中でも熱心に取り組んでいる歯科医院も存在します。医院の標榜科目だけでなく、ウェブサイトの内容や問い合わせを通じて、実際の対応状況を確認することが大切です。
6.3 かかりつけ歯科医への相談
MFTに対応する歯科医院を探す上で、最も身近な相談相手となるのが、かかりつけの歯科医です。定期検診などで通院している歯科医院があれば、まずはそこで相談してみましょう。
かかりつけの歯科医がMFTに精通していなくても、あなたの口腔内の状態やこれまでの治療歴をよく理解しているため、的確なアドバイスをもらえる可能性があります。例えば、あなたの症状がMFTの適応となるかどうかの初期的な判断や、MFTに対応している専門の歯科医院を紹介してもらえるかもしれません。
相談する際は、以下の点を具体的に伝えるとスムーズです。
- 気になっている症状(例:「舌がいつも下の歯を押している気がする」「口が渇きやすい、口呼吸かもしれない」「飲み込みにくい」「特定の音が発音しづらい」など)
- MFT(口腔筋機能療法)に関心があること
- どのような改善を期待しているか
かかりつけ医から紹介を受ける場合は、紹介状(診療情報提供書)を作成してもらうと、紹介先の歯科医院での診察や情報共有がスムーズに進むというメリットがあります。信頼できるかかりつけ医からの情報は、適切な歯科医院選びの大きな助けとなるでしょう。小児歯科で行っていることが多いようです。
もし、かかりつけ歯科医がいない場合は、まずはお近くの歯科医院で一般的な歯科検診を受け、その際にMFTについて相談してみるのも一つの方法です。
7. まとめ
MFT(口腔筋機能療法)は、舌や唇、頬などの口腔周囲筋の機能を改善し、正しい舌の位置や嚥下、発音、鼻呼吸を促すためのトレーニング療法です。子供の歯並びや顎の健やかな成長をサポートするだけでなく、大人の矯正治療の効果を高めるためにも重要となります。舌癖や口呼吸といった症状の改善には、歯科医師や専門家の指導のもと、個々の状態に合わせたトレーニングを継続することが不可欠です。健やかな口腔機能と整った歯並びのために、まずは歯科医院で相談してみましょう。
矯正治療のご相談をご希望の方は、下記のボタンよりお気軽にご予約ください。
この記事の監修者
尾立 卓弥(おだち たくや)
医療法人札幌矯正歯科 理事長
宮の沢エミル矯正歯科 院長
北海道札幌市の矯正専門クリニック「宮の沢エミル矯正歯科」院長。
日本矯正歯科学会 認定医。